5年後の乳がん発症リスク予測AI|
Allix5(FDA De Novo承認事例)

スクリーニングマンモグラフィの画像から、将来(5年以内)の乳がん発症リスクを予測する新しい概念の医療機器プログラムについて紹介します。

製品の概要

仕組み・原理

既存治療との違い(Unmet Medical Needs)

現在の標準的なリスク評価には、GailモデルやTyrer-Cuzickモデルといった従来の数学的リスクモデルが使用されていますが、これらのモデルは患者の自己申告データに依存するため、不正確な入力や欠損値によって結果が歪むリスクがありました。また、主に白人集団のデータで開発されたため、有色人種(黒人、アジア人、ヒスパニック系など)に対する精度が落ちるという人種的バイアスも指摘されていました。Allix5は画像から直接特徴を抽出するため自己申告のエラーを排除でき、多様な集団のデータで学習されているため、人種的バイアスを軽減できるという画期的な利点があります。

製品詳細は以下

https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpmn/denovo.cfm?id=DEN240047

臨床試験(ピボタル試験)の全体像

本製品は、既存の数学的モデルを直接の対照群に置かず、事前に設定した目標値(パフォーマンスゴール:PG)を達成できるかを見る「単群試験」として設計されました。

項目 内容
試験名・目的 市販前ピボタル試験。5年間の乳がんリスク予測における識別能(Discrimination)と較正能(Calibration)を評価すること。
デザイン 多施設共同の後ろ向き試験(Single-arm retrospective powered study)。
対象集団と症例数 米国国内の5つの臨床サイトにおける44,112名の患者から得られた77,511件の検査データ。AIの学習・チューニング用データとは独立したデータを使用。
主要評価項目 1. 識別能: 5年時点での時間依存的・累積動的ROC曲線下面積(AUC(5))が、PGである0.64を上回ること。



2. 較正能: 修正GND(Greenwood-Nam-D'Agostino)テストによる予測精度と実測値の適合度評価。
副次評価項目 既存がん(90日以内に診断されたがん)を除外した集団での評価、および白人・黒人のサブグループにおける評価。
評価期間 インデックスとなるスクリーニングマンモグラフィの受診から5年間。

有効性・安全性の結果(概要)

本プログラムは、主要評価項目である識別能および較正能の双方で成功基準を達成しました。

主要な有効性の結果(全体集団)

評価項目 結果概要 詳細データ
識別能 (Discrimination) 成功基準(PG: 0.64)を達成 AUC(5): 0.70 (95%信頼区間: 0.69 - 0.72)
較正能 (Calibration) 臨床的に許容可能な予測精度を達成 修正GNDテスト p値 < 0.0001

安全性

安全性: ソフトウェア(SaMD)であるため直接的な身体的有害事象はありませんが、機器の「過大評価(偽陽性)」による不要な追加検査や、「過小評価(偽陰性)」による検査・予防措置機会の喪失などが潜在的リスクとして評価されている

審査における「論点」と「考察」の深掘り

当該製品の審査にあたって、論点となったであろう点について

論点①:対照群を置かない「単群試験」と、AUC 0.64という目標値の妥当性

論点②:既存がん患者(90日以内診断)を除外した評価の必要性

論点③:高リスク層(スコア>5%)における「過大評価」の許容

論点④:乳房インプラント(豊胸)患者における性能未達

AUC 0.64の妥当性

資料中の参考文献3(McCarthy AM et al., 2020)において、「AUC 0.64」について言及されているので、この文献での報告内容をまとめます。

研究の目的と対象集団(N数)

追跡期間とイベント発生数

評価方法

各モデルの予測精度は、主に以下の2つの指標を用いて評価されました。

AUC 0.64

添付文書・ラベリングへの反映

上記の論点や臨床結果に基づき、FDAのSpecial Controls(特別要件)として、ラベリングに以下の内容を反映させることが義務付けられています。

警告(Warnings)・重要な注意事項:

限界(Limitations):

併用・技術的制限:

参考情報

使用目的 (Indications for Use)

アルゴリズム学習

項目 内容
学習施設数 22施設
学習データ総数 約365,916件
ゴールドスタンダード(GS) 生検確定乳がん(陽性)/5年以上後の後続マンモグラフィまたは生検確定乳がんなし(陰性)

臨床評価の詳細(主要・副次エンドポイント)

集団 件数 AUC(5)(95% CI) GND検定統計量 NCP p値 判定
全体(Co-primary) 77,511 0.70(0.69, 0.72) 21.70 121.25 <0.0001 達成
現在がん除外(Secondary) 77,072 0.66(0.66, 0.68) 95.27 132.08 0.0174 達成

臨床評価の詳細(サブグループ解析)

サブグループ 件数 AUC(5)(95% CI) キャリブレーション p値 判定
アジア人 5,735 0.72(0.67, 0.77) 0.1830 識別○/較正×
黒人 28,931 0.67(0.65, 0.69) 0.0107 ○/○
白人 34,743 0.73(0.71, 0.74) 0.0016 ○/○
ヒスパニック 7,617 0.70(0.64, 0.75) 0.0139 ○/○
<50歳 20,156 0.68(0.66, 0.72) 0.0498 ○/較正×
50〜65歳 35,310 0.69(0.67, 0.71) <0.0001 ○/○
≥65歳 22,045 0.68(0.66, 0.70) 0.5202 ○/較正×
乳腺密度:高 30,912 0.69(0.67, 0.71) 0.0168 ○/○
乳腺密度:低 44,627 0.71(0.69, 0.73) <0.0001 ○/○
乳房インプラントあり 1,738 0.73(0.59, 0.87) 0.1153 識別×/較正×
乳房インプラントなし 75,773 0.70(0.69, 0.72) <0.0001 ○/○
Lorad Selenia 22,093 0.72(0.70, 0.75) <0.0001 ○/○
Selenia Dimensions 55,491 0.70(0.68, 0.72) <0.0001 ○/○

乳房インプラント患者・アジア人・50歳未満・65歳以上ではキャリブレーション未達。特に乳房インプラント患者は識別能も未達。5%超スコアは過大評価の傾向あり(ラベリングに注意喚起を記載)。