2023年2月15日に薬事承認された「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」に関して、PMDAによる不眠障害治療用アプリの審査結果から、企業が学ぶべきことを記載していきます。
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以下の文献をもとに私なりの解釈をお伝えしていきます。
令和4年12月19日 医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 審議結果報告書 SUSMED 不眠障害治療用アプリ Med CBT-i
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目次
不眠障害治療用アプリの承認条件
不眠障害治療用アプリは議論の過程で、承認条件で「不眠障害に関連する十分な知識を有する医師」が付されています。具体的には以下です。
【承認条件】
不眠障害に関連する十分な知識を有する医師が、CBTI に関する知識や本品が提供する CBT-I を十分に習得した上で本品を用いるよう、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知、講習の実施等、必要な措置を講ずること。https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/331621_30500BZX00033000_A_01_01
この承認条件は不眠障害治療用アプリの販売数を確保する上で、大きな課題となったと言えます。
承認条件による販売への影響
「不眠障害に関連する十分な知識を有する医師」は具体的な定義は示されておりませんが、この定義に合致する医師の数が少ないと考えられます
たとえば、不眠障害に関連する十分な知識を有する医師を日本睡眠学会の規定する専門医とする場合、専門医を取得するハードルが高く、それにより処方できる医師が限られることが予想されます。
ただし、「不眠障害に関連する十分な知識を有する医師」を数時間程度の講習によって担保できるのであれば、大きな影響はないかもしれません。
承認条件が付された理由・背景
そもそもなぜこの承認条件が付されたのかというと、以下の議論からその経緯が推測できると思います。
PMDAが指摘する不眠障害治療用アプリのリスク
上記のリスクを踏まえ、以下の結論としている
この議論を簡単にまとめると、「不眠障害治療用アプリは、その有効性・安全性が期待できる患者を見極める必要があり、その見極めには”不眠障害に関連する十分な知識”を有し、さらに”CBT-Iに関する知識やアプリが提供するCBT-Iを十分に習得”した医師という条件が必要」ということです。
不眠障害治療用アプリの臨床的位置付け
PMDAは不眠障害治療用アプリの臨床的位置付けを以下のように結論付けています。
本品は対面式 CBT-I を実施する中で、不眠障害の治療に使用する選択肢の 1 つとして位置づけ、使用にあたっては、患者個々に対し本品を使用することが適切かを判断することが重要であると考える。
臨床的位置付けという言葉の説明は難しいですが、どのような立場の製品で、どのような患者に対して使用できるのかを一言で表した使用条件というイメージです。
臨床的位置付けという言葉は、なじみがないかもしれませんが、PMDAが審査する上で非常に重要であり、企業側はこれを説明できるようにしておく必要があります。
とくに治療用アプリは、この位置付けによって治験デザイン(特に比較対照群の設定)が変わる可能性があることから、ビジネス要求も踏まえて開発初期段階で方向性を決めておくのが望ましいです
臨床的位置付けについて、企業側が考えておくこと
個人的には不眠障害治療用アプリは、処方可能な医師数が少ないことが予想され、販売が難しいという印象を持っています
当然、「不眠障害に関連する十分な知識を有する医師」は今後発出されるであろう適正使用指針の記載次第ではありますが、少なくとも非専門による不眠障害治療用アプリの処方はできない可能性が高いです。
この課題に対し、他社が学ぶべきことについて、以下に記載します。
そもそも当該承認条件が付与された背景として、「使用にあたっては、患者個々に対し本品を使用することが適切かを判断することが重要」となったことに起因すると考えられます。
アプリ単独でCBT-Iを実施することは適切な治療を行うことが出来ないリスクがためく、専門家の管理下で使用することが要件となっていることがうかがえます。
上記の判断について、他領域の治療用アプリへの影響を考えると、既存の認知行動療法(CBT)をアプリで代替するという位置付けで承認を取得するのは厳しいと考えます。
これは機構が指摘しているように、アプリだけで患者の状態を適切に判断することは困難であり、患者の状態悪化を見落とすリスクがゼロと主張することは極めて難しいと判断されるためです。
したがって、CBT型治療用アプリは、医療従事者の管理をセットにした建付け(臨床的位置付け)で承認されることを前提にアプリ開発、臨床試験を実施していくのが望ましいと私は考えます。
仮に治療用アプリで、既存のCBTをアプリで代替するという位置付けを目指すのであれば、薬物療法との非劣性試験を行うなどの対応策は考えられますが、非劣性試験のため臨床試験のサンプルサイズが多くなりコストが膨らむ可能性や、薬物療法との非劣性試験特有の指摘を承認審査で受けることが予測されます。
これらを踏まえると、現時点で既存のCBTをアプリで代替するという位置付けは、非常にハードルが高いものと考えます。