製薬企業の品質部門にはいくつもの仕事がありますが、品質部門は大きく品質保証 (QA)と品質管理(QC)の2つに分けることができます。
このページでは、これまでの品質部門で働いてきた経験から製薬企業の品質保証 (QA)と品質管理(QC) の違いを簡単に説明します。
なお製薬企業に関する内容であり、他分野の品質保証(QA)と品質管理(QC)とは異なる可能性があることをご承知おきください。
目次
製薬企業の品質保証(QA)と品質管理(QC)の役割
QAとQCの役割の違いと仕事内容について以下にまとめます。
項目 | 役割 |
---|---|
QA(品質保証) | 製品の品質全体を保証(市場の製品に責任をもつ) |
QC(品質管理) | 製品の品質規格を管理(市場に製品を出すときの品質規格に責任をもつ) |
項目 | 仕事内容 |
---|---|
QA(品質保証) | 逸脱(製造時の不具合)対応、出荷後の回収(リコール)対応、供給業者の選定など |
QC(品質管理) | 製品品質試験の実施、製品品質試験の合否判定 |
製薬企業の品質保証(QA)と品質管理(QC)は英語で何というか?
品質保証と品質管理ですが、業界ではQAやQCと呼ばれることがあります。
英語での呼び名や略称は以下です。
項目 | 英語の略称と読み方 | 英語 |
---|---|---|
品質保証 | QA(キューエー) | Quality Assurance |
品質管理 | QC(キューシー) | Quality Control |
品質保証も品質管理もQuality(品質)という単語がついてはいますが、求められる役割は大きく異なります。以下で役割について紹介します。
品質保証(QA)と品質管理(QC) の役割の違いとは
品質保証が製品全体の信頼性を保証するのに対し、品質管理は製品規格を満たしていることを管理する役割を担っています。
以下の表をみると、その違いがわかるはずです。
担当 | 役割 | 仕事 |
---|---|---|
品質保証(QA) | 開発から生産・市販後まで責任をもつ | 市場に出る製品の責任をもつ |
品質管理(QC) | 市場に出荷するための品質規格を満たしていることに責任をもつ | 製品出荷時の品質試験、有効成分が規格に含まれる |
上記の表だけだとイマイチ分からない人は医薬品の開発、生産、市販後のプロセスに分けてみると、違いが分かるはずです。
プロセス | 品質保証(QA) | 品質管理(QC) |
---|---|---|
開発 | ・品質リスク分析・品質基準策定 | なし |
生産 | 製品の品質規格からの逸脱調査、製品の出荷判定 | 品質試験 |
販売後 | クレーム対応、新しいガイドラインの監視、回収(リコール) | なし |
上記の表で言いたいことは、品質保証は医薬品の開発から生産・販売後まですべてをカバーする一方で、品質管理は生産された医薬品が設定された品質規格に合っているかどうかを検証する役割です。
実際、海外企業とコラボレーションをしていたときは、その窓口は私(QA)が担当し、医薬品の品質保証体制を説明していました。
また、厚生労働省とのやりとりもQAが窓口を担当していました。
このようにQAは会社外とのやりとりから見ても、製品品質を保証する役割を持ち、品質全体の代表なのです。
会社によって品質保証(QA)や品質管理(QC)の定義は異なる
上記の表で品質保証(QA)や品質管理(QC)の違いについて紹介しました。
ここで一つ注意してほしいことがあります。それは企業によってはQAとQCの業務分担が異なることがあることです。
そのため、上記はあくまで一例として理解ください。
品質保証(QA)と品質管理(QC)の仕事内容を具体的に解説
品質保証(QA)と品質管理(QC)の仕事内容について紹介しました。
その中で、「製品の品質規格からの逸脱調査」や「製品の出荷判定」といった仕事があると記載しています。
しかし、このような単語を羅列しただけでは、仕事のイメージがつきにくいです。
そこで、以下の表で仕事内容を説明をしておきます。
品質保証(QA)の仕事内容
仕事内容 | 説明 | 事例 |
---|---|---|
品質リスク分析 | 医薬品の製造工程を設計するときに発生するリスクを分析し、リスクが高い工程に関しては、リスク低減策の妥当性を確認する | たとえば、有効成分5mgという薬を作るとき、撹拌タンクの混合が不十分だと薬に5mg含まれないことがある。「混合不十分」のようなリスクを分析し、低減策を講じる |
品質基準策定 | 医薬品の製造工程を設計するとき、どの工程に品質基準を設定するか決める(チェックポイント) | 撹拌が十分にされたかどうかを検証するために、撹拌後のサンプルを取得して、有効成分量を調べるチェックポイントを設定するなど |
逸脱 | 決められた手順もしくは決められた規格から外れた場合、逸脱として認識されるが、その逸脱の対処方法の妥当性を検証する | たとえば「撹拌時間が規定値以下」だった場合、逸脱として調査を行う |
出荷判定 | 生産した製品が工場から出荷してよいレベルのものができることを判定する | 「有効成分が5mg含まれていること」などの品質項目を全てクリアしていることを確認して、工場から出荷する |
クレーム対応 | 医療従事者からの苦情対応 | 「市場に出荷した製品の使い勝手悪い」や「毛髪混入」などが実際にある例 |
市販後調査 | 市販後の医薬品の効果効能を評価する | 市販後の副作用などを検証して、製品の改善を行う |
新しいガイドラインの監視 | 新しい規制要求事項が追加されたら、それを製品に適用させる | たとえば、近年のガイドラインでは原料の供給業者の管理などは薬を販売する会社の責任になっている |
回収(リコール) | 製品の不具合事象が看過できない場合に、回収を行う。その回収の可否判断を行う。 | たとえば、表示が間違っていると回収になる |
変更管理: | 製品の何かを変更をする場合、その変更が製品の品質に影響するかどうかを判断 する | たとえば、コスト削減をして原薬(API)を変更する場合、その変更による品質への影響調査を行い、厚生労働省などに報告するレベルかどうかを確認する |
年次製品品質照査の実施 | 製品試験、品質基準のデータが安定して推移していることを確認する。 | たとえば、一年分の有効成分量のばらつきをデータで確認し、そのばらつきが大きい場合は、対応を行う |
CAPA : | Corrective Action/ Preventive Action の略。不具合に対する修正処置や是正処置のことを指す。 | 逸脱やクレームが発生したとき、その原因を調査し改善を行う |
上記がQAの仕事の一部です。
品質管理(QC)の仕事内容
品質管理(QC)の仕事内容は、上述のとおり、製品規格に合致していることを試験することがメインです。
ただ繰り返しになりますが、企業によってはQAとQCの業務分担が異なることがあります。
そのため、上記はあくまで一例として理解ください。
日本のGMPにおける品質保証と品質管理
ここまで品質保証と品質管理の違いについて解説をしてきましたが、実例として日本の厚生労働省が作成した資料を読むと、さらに理解が深まります。
上記URLのP32からがQAの業務内容(案)です。
実際のGMP省令に関する内容は、以下のURLで詳しく記載されています。
医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部改正について 薬生監麻発0428第2号 令和3年4月28日
GMP省令とは
この基準では、製品の安全性や品質が維持されるような項目が定められています。
製薬企業はGMPに準拠して医薬品を生産することが、国から求められます。
補足
現時点のGMPでは、品質管理の要求があり、その品質管理の記載にQAとQCの役割が含まれています。
そして、その品質管理の役割を各企業の解釈でQAが担ったりQCが担ったりしているのが現状です。
近年の医薬品業界のコンプライアンスの課題を考慮し、QAを明確に指針にも記載する動きが出ているのが最近の医薬品業界の流れです。
品質保証の方が幅広い経験を求められ、給与水準が高い
ここまで、品質保証(QA)や品質管理(QC)の違いについて紹介してきました。
紹介してきたとおり、品質保証(QA)はユーザー(患者、取引先)に対する品質の責任をもっているため、品質保証(QA)のほうが品質管理(QC)より責任は重いです。
そのため、品質保証(QA)のほうが高い知識や経験を要求されます。
そしてその分、給与も高いです。実際、転職サイトからオファーをもらうとき、低くて年収600万、高いと年収1000万というレベルです。