デジタルヘルス 最前線

FDA Breakthrough Device と TAP に連続選定| Boston Medical Sciences 岡本将輝CEOに聞く、
無下剤バーチャル内視鏡検査システムの米国事業化

Boston Medical Sciences株式会社 代表取締役CEOの岡本将輝氏
Boston Medical Sciences株式会社
代表取締役CEOの岡本将輝氏

概要

2026年5月、Boston Medical Sciences株式会社が、米国FDAの Breakthrough Device Designation ※1 を取得したことが報告されている。

対象は、同社(以下、BMS社)の無下剤バーチャル内視鏡検査システムである。FDAが、医療上の必要性が高い革新的な機器に付与する指定だ。

その約1か月後の6月には、FDAの早期実用化支援プログラム「TAP Pilot Program」※2 にも採択されたことが報告されている。

日本発のSaMDが、FDAの2つの特例プログラムに連続して選定された事例である。

BMS社は、「非侵襲的大腸がんスクリーニングAIシステムの開発と臨床展開」を事業内容に掲げる、2023年4月設立の医療ディープテック・スタートアップだ。

中核となる無下剤バーチャル内視鏡検査システムは、同社の説明によれば「高精度な仮想的腸管洗浄AIとポリープ検出AIにより、下剤による前処置が不要のバーチャル内視鏡検査システム」である。※3

大腸がんは早期発見により高い確率で治癒が期待できる一方、下剤の服用や内視鏡検査への抵抗感が「検査回避」という受診障壁を生んできた。同社はこの構造課題に挑んでいる。

今回、代表取締役CEOの岡本将輝氏(以下、岡本氏)にお時間をいただき、FDAの2つの特例プログラムへの選定が事業にもたらすインパクトについて話を聞いた。

なお、聞き手は株式会社Software Regulationの武田瑛司が務める。

日本発SaMDの米国事業化を目指して FDA Breakthrough DeviceとTAP 2026.10.22(木)18:00-19:30

本記事でご紹介するBreakthrough Device指定とTAP採択について、Boston Medical Sciences社の皆様から直接お話しいただくセミナーを開催します。

2026年10月22日(木)/参加無料・ハイブリッド開催。

岡本 将輝 氏 プロフィール

医師(MD)。信州大学医学部医学科を卒業後、東京大学大学院で公衆衛生学修士(MPH)および博士(PhD)を取得し、英国University College London(UCL)の科学修士課程を最優等で修了。

臨床医学・公衆衛生学・データサイエンスを横断する稀有なバックグラウンドを持つ。

現在はハーバード大学医学部放射線医学講師およびマサチューセッツ総合病院(MGH)3D Imaging Research研究員として、医用画像AIの研究と社会実装に取り組む。AI医療機器協議会 理事。

2023年4月、Boston Medical Sciences株式会社を創業。無下剤バーチャル内視鏡検査システムの開発と社会実装を率いる。

Boston Medical Sciencesの歩み

BMS社は、「大腸がん死根絶」を掲げ、2023年4月に設立された日本発の医療ディープテック・スタートアップ。

東京・日本橋に本社と研究開発拠点を置き、ハーバードメディカルスクール/マサチューセッツ総合病院 3D Imaging Research などとの共同研究ネットワークを持つ。※3

時期できごと備考
2024年5月厚生労働省「プログラム医療機器に係る優先的な審査等の対象品目」に指定国内での開発・審査を優先的に進める枠組みを早期に確保
2025年9月NEDO ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)PCAフェーズに採択設立から約2年で、エクイティと公的助成を合わせて累計21.3億円を調達
2026年5月米国FDA Breakthrough Device に指定下剤無し条件下で撮像された大腸CT画像において、大腸ポリープの検出を支援するCADeソフトウェアとして評価
2026年6月米国FDA TAP Pilot Program に採択開発・審査・保険償還・医療現場への導入を含めた社会実装を見据えた支援プログラムへの採択

上表はBMS社の公表済みニュースリリースに基づく。※3

インタビュー

本記事では、聞き手である武田瑛司(株式会社Software Regulation 代表取締役)の発言を、青字で表記しています。

武田(モデレーター):まずは、5月のFDA Breakthrough Device指定、そして6月のTAP Pilot Program採択、おめでとうございます。今回の連続選定を、これまでの歩みのなかでどう位置づけていますか。

岡本氏:ありがとうございます。当社の掲げる「大腸がん死根絶」というビジョンに対し、これまで多くの皆様から当社へご支援をいただいています。

その中で米国の審査機関であるFDAに、当社の技術の臨床的な意義を客観的に認めていただけたのは非常に嬉しく思います。

今回の連続選定は、当社米国事業のターニングポイントの一つと考えています。

この連続選定により、米国展開における規制と保険償還のハードルをクリアする道筋が具体的に見えてきたことで、「臨床実装・商業化」という本格的なスケールアップ段階へ、これまで以上のスピードをもって事業を進めることができるようになると感じています。

武田(モデレーター):具体的に御社のビジネスにどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。

岡本氏:まず、Breakthrough Device Designation ※1 について。これは無下剤バーチャル内視鏡検査システムが生命を脅かす疾患に対する『画期的医療機器』であると、FDAに客観的に認められたことを意味します。

これにより、薬事審査プロセスにおける優先的かつ迅速な対応が期待できるようになりました。

また、FDAが『画期的』と認めたという事実そのものが、対外的な信頼につながります。投資家や事業パートナー、医療関係者の皆様に当社の技術の価値をお伝えするうえで、何よりの後ろ盾になったと感じています。

ただ、ビジネス上より決定的なのは、6月に採択された TAP(Total Product Life Cycle Advisory Program)※4 のほうだと考えています。

なぜなら、承認後に保険償還の枠組みを獲得するまでに、さらに時間がかかるからです。

米国の医療機器ビジネスにおいて、Breakthrough DeviceとしてFDAの承認・クリアランスを得ることができたとしても、それはゴールではなく新しいスタートに過ぎず、そこから保険償還を獲得するというプロセスが待っています。

武田(モデレーター):FDAの承認からメディケアの保険適用までは、一定期間がかかることが報告されています。※5

岡本氏:興味深いのは、この構造をFDA自身が問題として明示していることです。

FDAはTAPを説明する文書のなかで、この制度の目的を「医療機器のvalley of death(死の谷)をde-risk(リスク低減)すること」と書いています。※2

当局が、規制の話だけでなく、事業が途中で力尽きる構造そのものに手を入れようとしている。そこに驚きがありました。

TAPでは、FDAの審査担当者だけでなく、患者、医療提供者、支払者といった関係者と、開発の早い段階から継続的に対話する機会が設けられるとされています。※2

つまり、「どうすれば承認されるか」だけでなく、「どういうエビデンスを出せば保険収載されるか」を、早期に議論することができる。

これは、医療ディープテックが最も苦しむ局面を構造的に変えるものだと考えています。

武田(モデレーター):数字の話でいえば、TAPは、2026年7月1日時点で133件が採択されていることが報告されています。※4 会社設立から約3年で、その1件に採択されたのは、すごいスピードだなと感じています。

岡本氏:そう言っていただけるのは、非常にありがたいことです。

武田(モデレーター):実際のところ、Breakthrough Device指定やTAP採択に向けてはどのような準備をされたのでしょうか。

岡本氏:正直に申し上げると、きれいな計画があったわけではありません。走りながら決めていった、というのが実際に近いです。

まずBreakthrough Device指定については、以前から検討していました。指定を受けられれば、製品価値を高めるうえで非常に大きな意味を持つと考えていたからです。

しかし、要件そのものはFDAのガイダンスを読めば分かるのですが、果たして私たちのデータと説明でそれを満たせるのか——そこに確信が持てませんでした。ですので、準備を進めていたというより、機をうかがっていた状態でした。

TAPについては、Breakthrough Device指定を準備していた時点で、その先にそういう枠組みがあることは認識していました。入れたらいいな、という期待を持っていた程度です。

ただ、Breakthrough Device指定もTAP採択もいつ、どう申請するかまで固めていたわけではありませんでした。

武田(モデレーター):御社の技術は厚労省のSaMD優先審査にも採択されています。そのときのものと違いがありましたか。

岡本氏:採択の時期が違いますし、そのときどきで状況も異なりますので、単純に比べるのは難しいと思います。

ただ、求められる資料も、質問の返し方も、それぞれ異なっていたように思います。

もっとも、これは米国と日本という差というよりは、それぞれの枠組みで求められる要件の違いなのかなと感じています。

どちらがよくて、どちらが簡単だ、という話ではありません。どちらも本当によくできた仕組みだと思っています。

武田(モデレーター):Breakthrough Device指定、TAP採択について、FDAとのやりとりでご苦労された点を教えてください。

岡本氏:FDAとのやりとりは、率直に言って簡単ではありませんでした。製品の価値を十分に伝えるための資料づくりに始まり、厳しい質問への対応まで、ハードルはいくつもありました。

このあたりは、武田さんにも実務面も含めてかなり深く入っていただきましたよね。

そういう意味では、日々手を動かしていたのは武田さんたちを含めた現場のメンバーです。

当時の状況や印象に残っていることを武田さんたちにお話しいただくことも、これから米国を目指す方々には役立つと思います。

武田(モデレーター):ありがとうございます。たしかに、担当者の方のほうが、よりリアルなお話を聞かせていただけそうですね。次回、そういう回を作らせてください。

岡本氏:面白い話になることを期待しています。

武田(モデレーター):技術的な側面についてもお聞かせください。「Forbes JAPAN RISING STAR AWARD 2026」ではグランプリを受賞されました。「完全無下剤」を実現した技術の核心はどこにあるのでしょうか。

岡本氏:Forbesのピッチでも強調させていただきましたが、我々のイノベーションの本質は「患者体験の変革」を通じた「行動変容」の創出にあります。

既存の医療AIの多くは「いかに医師の病変見落としを防ぐか」という専門家向けのソリューションです。我々が解決したい大腸がんの検査における課題は、そことは別のところにあります。

「下剤を2リットルも飲むのが辛い」「内視鏡は痛くて恥ずかしい」という理由で、そもそも患者様が検査を受けに来ないという「検査回避」のペインポイントです。

我々のアプローチは、下剤を飲まずに撮影した大腸CT画像から、深層学習を用いた3D画像解析によって腸管内の便や残渣を「デジタル上で完全に洗い流す」というものです。

ハーバード大学医学部やマサチューセッツ総合病院との共同研究を通じて独自に学習データを構築し、残渣とポリープを精緻に見分けるアルゴリズムの開発を進めてきました。

我々は、高精度な全大腸検査として世界で初めて、無下剤検査を臨床実装することを目指しています。※3

武田(モデレーター):最後に、製薬・医療機器企業の新規事業担当者や、社会実装を目指す研究者の方々へメッセージをお願いします。

岡本氏:この3年間を通じて強く実感しているのは、規制や公的支援の制度は、開発の最後に「乗り越える壁」ではなく、社会実装への道筋を早期から共に設計するための仕組みだということです。

優れた技術が、そのまま患者さんに届くわけではありません。臨床的な価値をどのようなエビデンスで示し、規制当局の承認を得て、医療現場に実装し、持続可能な事業として成立させるのか。そこまでを技術開発と一体で設計して、初めてイノベーションになります。

私たちも、厚生労働省の優先的な支援制度について早い段階から相談を重ねたことで、当局が何を期待し、どのような論点を重視しているのかを理解しながら、開発を進められる環境をつくることができました。これは非常に大きかったと思います。FDAのBreakthrough Devices ProgramやTAP Pilotについては、まさに対話が始まった段階ですが、米国においても早期から率直な議論を重ね、規制対応を単なる申請業務ではなく、より良い製品と事業をつくるプロセスにしていきたいと考えています。

新規事業担当者や研究者の皆様にも、技術が完成してから制度や社会実装を考えるのではなく、できるだけ早く外部との対話を始めるのがよいのではないかと思います。社会課題が大きいほど、一社、一研究室だけで完結することはできません。産業界、アカデミア、医療現場、行政が、それぞれの専門性と責任を持ち寄ることが不可欠です。

大腸がんは、予防と早期発見の仕組みを社会に行き渡らせることができれば、失われずに済む命が確実にある疾患です。私たちは「大腸がん死根絶」を、単なるスローガンではなく、実現すべき社会目標として掲げています。その実現に向けて、志を同じくする皆様と領域や組織の垣根を越え、具体的な社会実装を一緒につくっていけることを楽しみにしています。

おわりに

お忙しいなか、インタビューにご協力いただいた岡本氏に、改めて感謝申し上げます。

本記事でご紹介したBreakthrough Device指定とTAP採択について、Boston Medical Sciences社の皆様をお招きして、直接お話を伺う機会を設けています。

セミナーは2026年10月22日(木)開催です。

記事で触れきれなかったFDAとのコミュニケーションの実際や、「承認と償還を並走させる」事業設計についても、当日詳しくお伺いします。

イベント名日本発SaMDの米国事業化を目指して|FDA Breakthrough Device と TAP
日時2026年10月22日(木曜)18:00〜19:30
開催形式ハイブリッド形式(オンライン配信は18:00〜18:40の共通パートのみ/18:40以降は現地参加の方限定)
会場オフライン:東京都内/オンライン:いずれもお申込み後にご案内します
登壇者岡本 将輝(Boston Medical Sciences株式会社 代表取締役CEO)/橋爪 克弥(Beyond Next Ventures株式会社 パートナー)/武田 瑛司(株式会社Software Regulation・モデレーター)
参加費無料
主催Beyond Next Ventures株式会社、株式会社Software Regulation

注記・出典

本文中の ※ 番号に対応する出典を以下にまとめる(いずれも2026年8月25日時点で確認)。

※1 Breakthrough Device Designation

出典:FDA「Breakthrough Devices Program」

https://www.fda.gov/medical-devices/how-study-and-market-your-device/breakthrough-devices-program

※2 TAP Pilot Program(Total Product Life Cycle Advisory Program)

出典:FDA「CDRH Launches the Total Product Life Cycle Advisory Program Pilot」

https://www.fda.gov/medical-devices/medical-devices-news-and-events/cdrh-launches-total-product-life-cycle-advisory-program-pilot

※3 BMS社ホームページ

本文中の技術・事業に関する主要な表現、および歩みの表に掲げた各マイルストーンは、BMS社の公式サイトおよび公表ニュースリリースに基づく。

出典:Boston Medical Sciences ホームページ

https://b-ms.tech/

※4 TAP Pilot Program の参加状況・要件

出典:FDA「Total Product Life Cycle Advisory Program (TAP)」/「TAP Pilot Enrollment & Expansion」

https://www.fda.gov/medical-devices/how-study-and-market-your-device/total-product-life-cycle-advisory-program-tap

※5 FDA許可からメディケア償還までの期間

出典:FDA「CMS and FDA Announce RAPID Coverage Pathway」(2026年4月23日)

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/cms-and-fda-announce-rapid-coverage-pathway-accelerate-patient-access-life-changing-medical-devices

※本記事で紹介している無下剤バーチャル内視鏡検査システムは、日本国内および米国において未承認の医療機器です。現時点で、販売・提供は行っていません。